快適でエコな住環境
ここでは、室内の温熱環境が健康に与える影響を切り口に、住環境研究所が考える省エネと住宅について説明します。
室温と健康の関係
住宅における室温と居住者の健康について因果関係があることが、近年の研究で分かってきています。
イギリスでは新築住宅を建築する際、冬季の室温が18℃以下になる家をつくってはいけないという法律がありますが、これは18℃未満になると血圧の上昇や循環器系疾患の恐れが出てくることが理由にあります。
21℃ | 昼間の居間の最低推奨室温 |
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18℃ | 夜間の寝室の最低推奨室温 |
18℃以下 | 血圧上昇、循環器系疾患の恐れ |
16℃以下 | 呼吸器系疾患の恐れ |
暖かい室内をつくる必要性は、寒冷地だけに限った事ではありません。むしろ、住宅の断熱がしっかりできている北海道や青森は冬季の死亡増加率が低く、逆に温暖な地域ほど冬季の死亡増加率は高くなっているというデータもあります。問題は地域の寒暖ではなく、建物の中を温かい環境にできているかということです。
冬季の死亡事故の代表例としてヒートショックが挙げられますが、これは暖かい居間から寒い脱衣室に行き熱い浴槽に入るという移動の中で、急激な温度変化が血圧の上下の変動を引き起こし、入浴中の失神や不整脈、脳卒中や心筋梗塞の原因となるものです。
また、寒い家ほど熱い温度での入浴になりがちという報告もありますが、こうした悪い循環を防ぐためには家全体を暖かくすることが大切です。
断熱の大切さ
家全体を暖かくするということは、家全体をしっかり断熱するということです。
もちろん性能の良い冷暖房設備を使うことでも室内の温熱環境は良くなりますが、外壁、屋根、床、窓などから熱が逃げない構造として、ちょうど魔法瓶の中の飲み物が冷めないのと同じように、室温を安定させることが健康的な温熱環境につながります。
しっかりと断熱された建物は、小さな冷暖房のエネルギーで年中室温が一定になりますので、快適に過ごすことができるだけでなく、ランニングコストも経済的になります。
住環境研究所が考える快適でエコなデザイン
住環境研究所は設立以来、「自然の中で建物は生かされ、人は生かされる」という考えのもと、設計をおこなってきました。私たちが大切にしているデザインのコンセプトは、建築のかたちの工夫によって自然のエネルギーを採り入れ、設備に必要な電気等のエネルギーを最小限に抑えつつ、快適な環境を創り出すことです。以下に、大切にしているポイントを挙げます。
1.断熱
まずは内部をもれなくくるむように、各部の断熱材を選定します。部位の違いによって調湿性や耐水性も考慮し、自然素材の採用も検討します。デザインも大切にしつつ断熱性能を損なわないように、また構造材の施工性も考えながら設計しますので、設計士にとっては腕の見せ所です。デザインの検討と同時に、断熱性能(UA値)を計算しながら設計を進めていきます。
下の図は、断熱性能(UA値)に関する各基準となります。
グレードが高くなるほど初期費用は上がりますが、ランニングコストが下がります。50年以上住むとコスパが良くなると言われるG2以上、できればUA=0.3台を推奨しています。
(UA値は熱の逃げやすさを表す指標で、数値が小さいほど断熱性能が高くなります。)
基準名 | 地域区分 | ||||||||
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1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | ||
平成28年省エネ基準 | 2025年適合基準 | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 | |
断熱性能等級4 | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | ||
ZEH基準 | 2030年適合基準 | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | |
断熱性能等級5 | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | ||
HEAT20 G1 | 0.34 | 0.34 | 0.38 | 0.46 | 0.48 | 0.56 | 0.56 | ||
HEAT20 G2 | 0.28 | 0.28 | 0.28 | 0.34 | 0.34 | 0.46 | 0.46 | ||
弊社推奨基準 | 0.35 | ||||||||
HEAT20 G3 | 0.20 | 0.20 | 0.20 | 0.23 | 0.23 | 0.26 | 0.26 |
地域区分:全国各地を気候条件にてり8つの地域に分けたもの。1が北海道などの寒冷地となり、浜松市は6地域に指定されている。
2.気密
室内の快適性を向上させるためには、断熱だけでなく気密にも配慮します。合板同士を突きつけた隙間や設備の開口廻りなどの隙間を、専用のテープで丁寧にふさぐことにより、気密性が向上します。気密が上がると、室内の空気が外に逃げていきにくくなるので、冷暖房が効きやすくなります。また、壁内に隙間から湿気が入ることを防ぎ、木材などの腐食を防ぎます。テープの施工は現場での仕事ですが、設計士は気密テープを張る箇所をきちんと図面に書き、現場に伝える役割があります。
3.日射遮蔽・日射の採込み
夏に日射を防ぎ、冬に日射を採り入れることが、太陽に素直な設計であり、賢い設計です。窓の取りつく方位によっても条件が違ってきますので、1つ1つシミュレーションしながら、最も負荷が少ない(=冷暖房のエネルギーが最も小さい)かたちを決めていきます。
住環境研究所では、以上のようなポイントに気を付けながら温熱環境をデザインし、さらに外気や室温、年間の冷暖房費等をシミュレーションし、お客様に分かりやすく説明できるよう努めています。
将来の地球環境に向けて
エネルギー消費量を削減することは、建設業界が一体となって取り組まなければならない問題でもあります。
2015年にパリで行われたCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定を受けて、日本は2030年までに2013年比において26%の温室効果ガスの削減が目標となりました。
この内、新築建築物における最終エネルギー消費の削減量は、全体の12.8%を占めています。
日本の法律もCO2削減に向けて見直されてきています。建築物省エネ法の改正に伴い、2025年度から住宅を含むすべての新築する建築物において一定の省エネ性能を義務付けられることになりました。義務となる基準は「平成28年省エネ基準」と呼ばれるものですが、住環境研究所では、家の耐久性やメンテナンスも含めたコストバランス、快適性も考慮し、さらに高い省エネ性能での建築を推奨しています。