庭山の家
古き良きものを生かし、今と昔を感じる住まい
13代続く、もともと奥背戸と呼ばれる程の農家だった家を解体して母屋を新築しました。解体するときにご主人から、新築する続き間は出来る限り古い家の古材をそのままの形で使いたいというお話がありました。
早速、大工さんと調べた結果、横材の梁とそのまま2階の床になっている踏み天井の板は使えることがわかりました。材種は地松で、真っ黒に煤けていましたが、大工さんが丁寧に洗い落としてくれて飴色の古材に生まれ変わりました。
残念ながら柱と桁は加工痕が残り、傷みもひどいことから再利用するのを諦めましたが、その代わりに天竜杉の新月の木を使いました。1年経って天竜杉も飴色に変化して、新築とは思えないほどの落ち着きのある座敷になっていました。
2階と居間を結ぶ換気用の窓には、これも古い家に使われていた建具の一部を改造して造った格子戸を嵌め込ました。冬にはこの中にさらに障子も嵌め込むことが出来るという優れものです。
法事に集まった親戚の人達も古い家を思い出され、新しいけれど間違いなく本屋の佇まいであることを大変喜ばれて帰られたそうです。
また、日本の山村の農家ではよく見かける風景ですが、この家の東側には切り立った山が有りました。古い家は切り立った山際に建っていたので東側が何となく薄暗く、じめじめした感じでした。
新築するに伴い、ご主人から出たもう一つのご要望はこの山を切り崩して、食堂と居間から見上げることが出来る「庭山」を計画することでした。
切り崩してみると粘土質層に変わる上の層から山水が湧き出ていました。すると工事中にはその廻りに自然と苔が生え出したので、これを利用しない手はないということになり、粘土層を隠す石積みの石を富士の溶岩で積むことになりました。
浴室からも「庭山」が見えますので浴室の前は三ケ日石の野面積みとして単調になることを避け、リズムを創っています。おばあちゃんが手押し車を押して通る小道はコンクリートの洗いだし仕上げとしたのですが、ローコストのわりには歩行するにも滑らなくて安全で、どことなく味のある仕上げになりました。
玄関に立つと古井戸が見えます。昔から使われてきた井戸をこの家の真ん中に残しました。ご先祖様の命を守った古井戸を生活の中で感じることで、手を合わせる感謝のこころが生まれます。
「庭山の家」はこれからも、親戚のみんなが集まる、昔ながらの日本の良さを残した「いえ」でありつづけることでしょう。