2025年「省エネ基準適合の義務化」これからの家づくりの基準が大きく変わります

2025年、建築基準法や建築物省エネ法の改正により、住宅の省エネ基準の適合義務化や4号特例の縮小をはじめ、建築のルールが大きく変わります。法改正では、2025年4月以降に着工する全ての建築物に「省エネ基準」への適合を義務付けることが決まっています。これにより、一般住宅も含めて全ての建築物で「省エネ適合判定」が必要となります。
建物の省エネ性能に対しての評価と厳正な審査が全物件で実施され、一定の基準に達しない建物は建築することができなくなります。

今回のコラムでは、2025年4月施行予定の「省エネ基準の適合義務化」により今後の家づくりがどのように変わっていくのかを説明します。

法改正の背景と現在までの取組

法改正の背景

2020年10月に菅元総理の所信表明演説において、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。カーボンニュートラルとは、気候変動の原因となっている温室効果ガスの排出を”実質”ゼロとすることです。

この宣言では、2030年には温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減することが掲げられました。この目標は6年前の2013年に政府が掲げた26%削減という数値から大幅に引き上げられるものでした。日本のエネルギー消費の約3割を占める建築物分野での省エネ対策を加速させるため、私たち建設業界も一体となって取り組むべき課題であることが示されました。

このCO2削減のための省エネ対策が、今回の2025年建築基準法改正につながっています。

出所:環境庁/2050年カーボンニュートラルに向けた 日本の気候変動対策

省エネ政策のこれまでとこれから

図_省エネ政策の変遷

省エネ対策の大きな目玉が省エネ基準適合義務化になるのですが、非住宅建築物では、2017年4月より先行して義務化が始まっています。
2023年の現在に至るまで、非住宅における対象建築物の拡大や住宅における説明義務の施行といった形で少しずつアップデートをしてきました。

2025年の改正では、非住宅・住宅に関わらず全ての建築物が一定の省エネ性能への適合が義務化されます。
実はこの義務化はもう少し早く実施される計画もあったのですが、当時まだ申請側も審査側も体制が整っていないなどの理由により2018年に一度見送りとなっています。ようやく準備期間を経て、2025年度に規模問わず全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務付けられました。

省エネ義務化で何が変わるのか

建築士の役割の変化

2023年10月現在これまで300㎡未満の小規模の住宅や非住宅に関しては説明義務に留まっていましたが、2025年よりすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付けされることにより、住宅における建築士の仕事が次のように変わります。

  • 1. 建築主に建築物の省エネ性能の向上(※1)について説明
  • 2. 建築確認審査の中で省エネ適合性審査(※2)を受けるため、計画書や計算書等の資料の作成が必要になります
  • 3.完了検査時にも適合検査が行われます

(※1)義務基準である省エネ基準を上回る省エネ性能の確保。修繕等の場合は「向上」
(※2)平屋かつ200㎡以下の都市計画区域・準都市計画区域の外の建築物は、適合性審査不要

つまり、建築士が建物の省エネ性能を計算し、その品質を保証できるように設計・監理しなければなりません。

等級見直しでこれまでの最高等級が最低等級に

  • 2025年適合しなければならない省エネ基準とは

次に、2025年に住宅建築物が適合しなければならない「省エネ基準」とはどのような値なのかについて説明します。

省エネ法で適合が義務付けられる住宅の「省エネ基準」は、①外皮(躯体や開口部)の熱の通しにくさ = 「断熱性能等級」と、②消費される一次エネルギー量 =「一次エネルギー消費量等級」の2つで評価します。2025年以降には、すべての住宅で「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級4」以上を満たすことが求められるようになります

図_2025年に義務化される省エネ基準
  • 断熱等性能等級とは

断熱等性能等級(断熱等級)とは、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に規定された住宅の断熱性能がを表す等級のことで、国土交通省が制定しています。等級は1~7の7段階あり、数字が大きいほど断熱性が高いことを示します。
断熱等性能等級は、地域区分ごとに必要な「UA値(外皮平均熱貫流率)」が定められています。UA(ユー・エー)は「室内と外気の熱の出入りのしやすさ」を表したもの。建物の内外の温度差を1℃とした時に、建物の内部から外へ逃げる単位時間あたりの熱量を外皮面積で割ることで算出します。つまり、このUA値が小さいほど熱が出入りしにくく、断熱性能が高いということを表しています。

  • 一次エネルギー消費量等級とは

一次エネルギー消費量等級は2013年につくられた基準で、住宅が一年間に消費するエネルギー量を表します。ちなみに、一次エネルギーとは、石油、石炭、天然ガス、太陽光、などの自然界で採れるエネルギーのことで、家庭で使用される電気、ガス、灯油などの二次エネルギーとは別に表現されます。複数の二次エネルギーを使用する住宅であっても、建物全体のエネルギー消費量を算出するために一次エネルギーという値で評価します。
具体的には「設計一次エネルギー消費量」÷「基準一次エネルギー消費量」で求められるBEIという数値で等級が決まります。BEIが小さいほどエネルギー消費量が少なく、等級は高くなります。
国が定める省エネ住宅の基準では、一次エネルギー消費量等級4以上の適合が求められます。

基準を満たす性能では不十分

さて、数値やグレードであらわされるこのような基準ですが、たとえば断熱の仕様や設備の仕様なの?ということになると思います。

断熱等級4相当の断熱仕様とは?

建設地の気候ごとに異なりますが、断熱等級4を満たす断熱仕様は静岡県浜松市(省エネ基準地域区分6)の場合、国土交通省から公開されている断熱仕様を参考にすると、下図のような仕様になっています。

上記で示した仕様はあくまで断熱材やサッシの一例ではありますが、おそらく現在の新築戸建住宅で達成されている性能かと思います。なぜなら、「断熱等級4」という基準は、今から約25年前の1999年(平成11年)に制定された次世代省エネ基準と同等であると言えるからです。

2025年度以降は全ての新築住宅に等級4以上が義務化されるため、2022年3月まで最高等級だった等級4は実質、最低等級になり、それ未満の住宅は建築することができなくなります。さらに、2030年には省エネ基準の水準が引き上げられ、断熱等級5が最低等級になる予定です。

一次エネルギー消費量等級4で必要な設備は?

次に一次エネルギー消費量についてですが、こちらは国立研究開発法人建築研究所という機関で公開されている計算プログラムを使って計算することができます。

計算例

※木造軸組工法の2階建て住宅をモデルとし、諸元は以下のとおりです。

計算モデル:木造軸組工法の2階建て住宅

地域区分6地域
床面積1階:67.91㎡ + 2階:52.17㎡ = 合計:120.08㎡
一次エネルギー消費
計算用床面積
主たる居室:29.81㎡、その他居室:51.34㎡、非居室:38.93㎡
→合計:120.08㎡

計算条件:住宅設備の仕様

設備仕様
冷暖房設備ルームエアコンで居室のみを空調
換気設備ダクト式第二種 又は ダクト式第三種(熱交換なし)
給湯設備ガス従来型(エコジョーズなどの高効率ではない)、
先分岐方式、節水や高断熱浴槽などの省エネ措置はなし)
照明設備全てLEDを使用(調光や人感センサーはなし)
太陽光設備等なし

↓↓↓↓↓

▼計算結果

簡易計算ルートで出力した結果、LED以外にこれといった高効率、省エネな設備を使用しておりませんが、BEI=0.99という数値結果となり、断熱等級4基準(BEI≦1.0)を下回り「基準達成」となります。

いかがでしょうか?
建築においても、設備においても特段の工夫はをしなくても、2025年の省エネ基準を達成できてしまうものになります。
しかし、ただ基準を達成してこれまで通り工事に取り掛かれれば、それで良いのでしょうか?

住環境研究所が目指す住宅性能

住環境研究所では、特に断熱性能等級において、2025年の省エネ基準を達成する以上の仕様が必要と考えています。
その理由は、居住者の快適性やヒートショックの予防を目的として考えたときに、基準以上の高い断熱性能で室内の温度ムラを無くし室温を安定させることが、理想的な温熱環境につながるからです。
また、しっかりと断熱された建物は、小さな冷暖房のエネルギーで年中室温が一定になりますので、毎月発生する光熱費も経済的になります。
理想とする温熱環境、その実現のための初期コストとランニングコストのバランスから、住環境研究所ではUA値=0.3台を目標としています。

図:住環境研究所が目指す住宅性能の基準(2023年)

法改正を機に家づくりを見直そう

今後の建物の資産価値を考える

2025年の適合基準を超えて、高性能な家を目指すべき理由はもう一つあります。
前述の通り、2030年には適合基準が引き上げられることが既に予定されていますが、その時に資産の価値が下がってしまうということです。
省エネ基準への適合が義務化されると、これまでの最高等級だった「等級4」は、一転して「最低」等級になりますので、適合していない住宅の価値は相対的に低く評価されることになります。

前例を挙げれば、1981年(昭和56年)に、耐震基準が大きく改正されたことにより、それ以前の建物を「旧耐震」、それ以降の建物を「新耐震」と区別するようになりました。現在では「旧耐震」の建物は買い手がつきづらい、ローンが通りにくいなどの事情から、相場より安く取引されることも少なくありません。
(注:旧耐震の建物でも現行の耐震基準を満たし、通常の相場で取引される物件もあります)

今後、省エネ性能においても同様に、性能の高い建物は資産価値を維持できる一方、性能の低い建物は相場以下の価値で評価されてしまう可能性もあります。性能の高い住宅を建てることは、住まいの「資産価値」の面でも格差を生んでしまう可能性があります。

将来を見据えて必要な家づくりを

2025年の省エネに関する法改正は、カーボンニュートラルに向けて、またより高性能で快適な住宅の供給に向けて社会全体で取り組む第一歩となります。これを機会に、将来を見据えて必要な家づくりを考えるきっかけにして頂ければと思います。

今回のコラムでは「断熱」「省エネ」を中心に記述しましたが、それ以外にも耐震性や維持管理性など、住宅の基本性能に関わる要素は多くあります。そしてこうした基準は上がることはあっても下がることはありませんので、資産価値を維持するという観点からも、今の基準の一歩先を行く住まいを目指したいものです。

これから家づくりをお考えの方は、住宅の基本性能は建てた後に変更が難しい部分であるからこそ、設計事務所や工務店など”家づくりのプロ”と「どれくらいの住宅性能を求めるのか」をよく相談し検討していくことをおすすめします。

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